1.はじめに
この度、日本セルローズファイバー工業会会員全社は「改正労働安全衛生法」に則り、セルローズファイバーの製品安全データシートをGHS対応型の安全データシートに改改訂致しました。
これは物質の安全性等を世界で統一した基準で表示しようとする動向に基づくものです。
詳しくは以下でご説明しておりますが、GHSの評価基準は物質本来の安全性データをその程度にかかわらず、全て表示するという姿勢をとっています。
一般食品等にはこの表示義務はありませんが、セルローズファイバーは工業用品であるため安全データの表示義務を有しています。
新しい安全データシートは一見データが厳しい内容になっていますが、各社とも製品の製造方法は変わっておらず、従来通り正しい取扱い方法で使用すれば、セルローズファイバーは人にも安全で、家や地球環境にも優しいエコリサイクル断熱材であることに変わりはございません。
今回の改訂は従来の製品安全データシートと比べて大きく記載方法が変わりました。
ご質問をいただいた内容をまとめてQ&A形式でのご説明としております。ご確認の上ご理解いただくと共に、セルローズファイバーに対し今後も変わらぬご愛顧のほどお願い申し上げます。
(平成25年8月)
2.よくある質問
日本ではこのGHS関係を内容とした「改正労働安全衛生法」が2006年12月1日に施行されましたが、その移行期間として2010年12月31日まで日本工業規格Z7250:2000(現在の(M)SDS)に準拠した内容で作成することが設けられました。身近な改正点ではPRTR法の化管法の改正が2012年4月1日、施行が2012年6月1日にされ、また労働安全衛生法の安全規則の改正が2012年1月27日、施工が2012年4月1日に出され、内容は情報伝達方法として製品への表示、作業場の表示についても絵表示、注意喚起(危険)、危険有害性情報等をGHS表示する決まりとなりました。
- 危険有害性
- 火薬類、急性毒性~水生環境慢性有害性等33項目あります。
- 危険有害性区分
- 危険有害性により1~7段階に区分されます。
- シンボルマーク
- 次の9種類の絵表示があります。
- 注意喚起語
- 「危険」と「警告」の2種類があります。
- 危険有害性情報
- 区分により具体的な内容が決められています。
その中で「物理化学的危険性」と「環境に関する有害性」にはセルローズファイバーは該当しません。 「健康に関する有害性」は次のように分類されます。
- 急性毒性(経口)
- 1~5
- 急性毒性(経皮)
- 1~5
- 急性毒性(吸入・気体)
- 1~5
- 急性毒性(吸入・蒸気)
- 1~5
- 急性毒性(吸入・粉塵)
- 1~5
- 急性毒性(吸入・ミスト)
- 1~5
- 皮膚腐食性・刺激性
- 1A、B、C、2、3
- 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性
- 1、2A、2B
- 呼吸器感作性
- 1
- 皮膚感作性
- 1
- 生殖細胞変異原性
- 1A、1B、2
- 発がん性
- 1A、1B、2
- 生殖毒性
- 1A、1B、2、授乳区分
- 特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
- 1~3
- 特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
- 1~2
- 吸引性呼吸器有害性)
- 1~2
*区分表示は数字が小さいほど有害性が高くなります。
その為セルローズファイバーもその混合物として安全データシートにその有害性を表示する義務を有していると考えます。
セルローズファイバーの危険有害性の区分は別掲の安全データシート:(M)SDS に記載の通りですが、要約は下記の通りです。
- 皮膚腐食性・刺激性
- 区分2
- 眼に対する重篤な損傷・刺激性
- 区分2A
- 生殖毒性
- 区分1B
- 特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)
- 区分1 (神経系、消化管、腎臓、呼吸器)
区分3 (気道刺激性)
- 特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)
- 区分1 (神経系、腎臓、呼吸器)
区分2 (精巣)
セルローズファイバーの危険有害性については防燃剤であるホウ酸(ホウ酸ナトリウム)のデータをそのまま使用しています。 またその有害性区分を評価するデータは様々ありますが、当協会としては最も厳しい独立法人製品評価技術基盤機構(NITE)のデータベースを参考にしています。
- ■ホウ酸
- 生殖毒性
- 区分2A
- 急性毒性(経口)
- 区分1B
- その他
- 区分1 (神経系、消化管、腎臓、呼吸器)
区分3 (気道刺激性)
- ■ホウ砂(四ホウ酸ナトリウム)
- 生殖毒性
- 区分2
- 急性毒性(経口)
- 区分5
- 眼に対する重篤な損傷・眼刺激性
- 区分2A
- その他
- 該当しない
以上のように、RTM社の有害性区分と当協会が採用している製品評価技術基盤機構(NITE)のテータを基にした有害性区分では大きく違いがあります。その理由についてRTM社は次のように述べています。
GHSの分類標準は潜在的な有害性を基にしており、その区分は長期間にわたって餌の中に多量のホウ酸塩を入れて暴露(摂取)させた動物実験に基づいて判断されたものであり、正常な取扱いや使用条件での人間の暴露(摂取)を反映していないと評価しています。
またRTM社をはじめ世界中のホウ酸、ホウ砂メーカーはGHSに対する異議申し立てを行っており、今後も基準見直しに向けアクションを継続していく方針です。
またアメリカの米国労働安全衛生局(OSHA)はGHSを承認していません。このことは現在のところアメリカではホウ酸、ホウ砂の有害性評価は「分類なし」であることを意味します。
但し、どんなに必要なものでも一度に大量に摂取又は暴露すると害を及ぼす可能性があります。
このことを判断するにはラットによる「急性経口LD50」(一度に大量に摂取した場合ラットの50%が死亡する量)という基準があります。ホウ酸、ホウ砂のLD50は3,200~4,100mg/kgで、この値が大きいほど安全な物質になります。一般的にはLD50値が2,000mg/kg以上のものは毒性が弱いと判断されます。
1. Q6で説明しました急性毒性「LD50値」で示すとホウ酸・ホウ砂が3,200~4,100mg/kgに対し、身近なものでは食塩が3,000mg/kgです。つまり食塩と同程度の安全性ということが出来ます。
2. 食物の面でみると成人が一日に食事から摂取するホウ素の量は6~17mgになるといわれ、ワイン1リットルにはホウ素が25~35mg含まれています。このような反復摂取により健康を害したという事例を聞いたことがありません。
3. ここで私たちの身近にあるカフェインとホウ酸の安全性を比較してみます。
急性毒性LD50で比較すると、カフェインは200mg/kgでGHS区分は「区分3」、シンボルマークはになります。ホウ酸、ホウ砂はQ6で説明している通り3,200~4,100mg/kgでGHS区分は「区分5」、シンボルマークは付きません。
生殖毒性についてカフェインはヒトにおける疫学的報告やマウスによる繁殖試験によって、ヒトに対する生殖毒性が疑われる為、
GHS「区分1A」となったのに対し、ホウ酸はQ4で説明したようにGHS「区分1B」(カフェインより有害性が低い)となっています。シンボルマークは共にです。
一般的にカフェインは緑茶に30~50mg、紅茶に47mg、コーヒーに62~95mg(各235ml中)含まれています。毎日のように飲んでいる飲料に含まれているカフェインがホウ酸より有害性が高いことになりますが、紅茶や緑茶やコーヒーが禁止になったことはありません。
また、独立法人国立健康・栄養研究所のホームページには一般的な「食べ物」の危険情報が掲載されており、場合によっては体調に悪影響を及ぼすことなどが記載されています。
このように物質の安全性及び有害性はその摂取(暴露)量や使用方法によって大きく変わり、一般的な食べ物でも有害性があることになります。
4. ホウ酸は哺乳類に安全で、害虫を制御し、効果が持続するという特性から、欧米では1950年代から現在まで建築時の防腐、防蟻にホウ酸塩が広く使われています。(もちろん日本でも使用しています。)特に温暖湿潤な気候を好むシロアリの被害が深刻化してきたアメリカ・ハワイ州では1992年からホウ酸塩防蟻処理が始まり、現在ではほぼ100%のシェアを占め、シロアリ問題は解決しています。
5. ホウ酸の1日当たりの摂取量を安全性データと比較して分かりやすくグラフ化すると次のようになります。
プールの浄化剤、入浴剤にも含まれており、洗剤、医薬品、化粧品等に幅広く使われています。
産業用としては日本ではホウ砂をガラス原料として最も多く使用しており、その他木材保存剤、肥料、防腐剤等世界中で様々な用途に使用されています。
GHS分類の有害性区分の評価が厳しくても、前述したいくつかの指標を十分に下回るような摂取(暴露)量となるような使用方法をとれば、問題なく安全な薬品=製品と言えます。この為、これまで当協会会員としてセルローズファイバー施工店に対して日頃から防塵マスク等保護具を着用するよう指導しており、今後も指導徹底を継続していきます。
また実際にセルローズファイバーを採用している住宅に関しては天井裏、壁の中等に密閉された空間に使用されており、日常生活において居住している人との接触は考えられず、万が一接触し暴露した場合でもLD50の数値を超える摂取(暴露)の可能性は限りなく低く、健康に影響がでることは考えられません。